ドッ
鈍い音が聞こえてそろりと目を開けると、玄蛇はテーブルの上に乗った皿の上のフォアグラにナイフを突き刺して食べているところだった。
あ……あたし…無傷…?
思わず手のひらを眺めて目をまばたいていると
「ふむ、やはりこのホテルの味付けはおいしいね♪」
玄蛇は薄気味悪く笑って椅子に腰掛ける。
「あ…あたしを!お、脅したの!」
みっともなくも恐怖に声がひっくり返った。
「それだけのことをしようとしたんだよ、君は。私は私に楯突いて来る者に容赦はない。
それがたとえ雇い主であってもね。
命あっての代物だ。危険だと察知したら
殺られる前に殺る、
だ。
だが君からは殺気はほとんど感じられなかったからね。
目には目を。肝には肝を、だ☆」
な、なんなのよ……
へなへな
あたしはみっともなくも腰が抜けたように力なく床に座り込み
「おや、そんなに恐ろしかったかい?ごめんよ」
玄蛇はあたしの元にゆっくり歩いてくると、ちょっと申し訳なさそうに眉を下げる。
「何よ、さっきまで本当に殺されると思ってたんだからね!」
すぐ傍まででかかった涙を何とかこらえるよう努力していると
「それも演技かい?だったら効果覿面だな。
男は大概オンナの涙と言うのに弱いものだ」
玄蛇は困ったように眉を下げてしゃがみこむとクロスの端でそっと涙を拭ってくれた。
何だか今日―――あたし男の前で泣いてばかりだ。
「あんたはオンナの涙に動じるようなヤツじゃないじゃない」
「まぁそうかもしれないけどね。
私だって人並みの感情はある」
玄蛇はマイペースに笑ってあたしを覗き込んでくる。
無邪気過ぎるその笑顔に、何だか色々拍子抜けした。



