響輔の姿が見えなくなってあたしは慌てて自分の部屋に向かった。
スイートルームの扉の前で、サングラスを取り去った玄蛇が扉に背をもたれて待っていた。
「どうゆうこと!なんなのよ、あんた!」
開口一番に怒鳴ると
「怒ると美容に悪いよ?口元に皺が寄る。
ほら、笑って?」
玄蛇にぐいっと口元を無理やり持ち上げられ、口角が変な風につり上がった。
「やめてよ!なんなのよ」
相手が世界一腕利きの殺し屋だろうと今のあたしには関係ない。
玄蛇の手を払うと
「君に話がある。大事な、ね」玄蛇は小さくウィンクしてあたしを見つめ
「ルームサービスでもとらないかい?君だって空腹だろう?」
とマイペースに聞いていくる。
空腹ではないけど、でも疲れてるってのはある。
それに大事な話と言うのが何なのか気になった。
「いいわよ。あたしも聞きたいことがあったし。でも手短にね」
あたしはとりあえず承諾して部屋の中に促した。
―――――
――
「ふむ。なかなかの味だ」
玄蛇はフォアグラのソテーをナイフで切り分け、欠片を優雅に口に運びながら満足そう。
なかなか本題を切り出さない玄蛇に苛立ちながら、怒りを流すように強引にシャンパンを喉に流し入れた。
「で、話って何よ。早く話しなさいよ」
玄蛇はあたしの方を見ようともせず、フォアグラを切り分けながらうっすら笑みを浮かべ
「せっかちなのは良くないよ。ほら、君もゆっくり味わいたまえ」
フォークに突き刺したフォアグラをつき出してきてあたしは軽く睨んだ。
不機嫌なのをなんと勘違いしたのか
「ダイエット中かい?君の胃袋も肝臓もきっとフォアグラ並みに肥えることはないだろうね」
玄蛇は苦笑。
小バカにされたようでそれにむかっ腹が立ち、あたしは玄蛇からフォークを奪うとその切り分けたフォアグラを口に放り入れた。
もぐもぐ
ふん、確かに味はおいしいわね。
「あんたこそもっと太った方がいいんじゃない?プロの殺し屋ってもっとマッチョな人のイメージじゃない。
なのにあんたもやしみたいじゃん?」
「む。もやしとは失敬な。
鷹雄 響輔よりはしっかりしてる思うけどね」
ふいにその名前を出されてあたしはまだ咀嚼途中のフォアグラを思わず飲み込んでしまった。



