ごくり
あたしは生唾を飲み込み、そんなあたしの様子に気づかない響輔は
「なんや俺かっこ悪。さっきのドアマンに鍵投げつけたし、あんたを怒らせるわ、で」
「だ、大丈夫!あたし怒ってないし。ドアマンにはあたしがチップ払っておく」
そんな問題じゃない。
て気がしたけれどそれしか言えない。
「せやかてそれは悪いし。千円札やったらあるけどこれで足りる?」
響輔はジーンズのポケットから長財布を取り出し中から千円札を一枚引き抜いた。
「う、うん大丈夫。ありがとう」
いつもならこんな金突っぱねてるだろうけど、今のあたしにそんな余裕なんてない。
「ほな、また連絡するわ」
本当にそれ以上は何もする気がなかったのか響輔は大人しく方向転換をして帰っていく。
あたしはその遠ざかる背中に向かって
「響輔!」
大声で呼びかけた。
響輔がゆっくりと振り返る。
「嵐が来る。気配を感じるの。
気をつけて」
響輔はちょっと目をまばたくと
「教えてくれておおきに」小さく頭を下げ今度こそあたしに背を向ける。
嵐がくるわ。
とてつもなく大きな嵐が―――
それは予感。



