一瞬…
何が起こったのか分からず
ドサッ…
あたしの手からバッグがすり抜けて玄関口の冷たい床に落ちた音を聞いてあたしは目をまばたいた。
同じようにバッグにぶら下がっているテディも落ちて、黒い目で地面からあたしを…あたしたちを見上げていた。
まだそれほど遅い時間帯じゃなかったから、ホテルを出入りする客たちがじろじろと物珍しそうに、或いはこんな風に堂々と玄関口で抱き合ってるあたしたちと視線を合わせないようよそよそしくそれぞれ出入りしている。
ホテルのロビーからシャンデリアに使われているLED電球のまばゆい光が
きらきら
あたしたちを優しく包んでくれている。
「……響輔…?」
「俺かて分からへん。
何であんたんとこに行ったのか…
一番いけないことなのに、なんやあんたと居ると
ごちゃごちゃ厄介なこと考えんで済むから
楽やったんや。
ギブアンドテイクなんて言わんといて。
こんなこと言うたら虫が良すぎる思うけど、少なくとも今日の俺はそんなつもりやなくて
ただあんたと居ったら明るくなれる気がしたんや。
優柔不断でごめん」
ぎゅっと響輔の腕に力が入る。
騙して
騙されて
いつだってあたしたちの関係は不安定だった。
敵なのか味方なのかもあやふやで、ひどく危険で脆い関係。
でも
その関係の一線を超えたらあたしたちは普通の男女になれるのかな。
普通以上の関係―――恋人同士になれるのかな。
「響輔―――…」
おずおずと響輔の背中に手を回すと
響輔はあたしを一層強く抱きしめてぽつりと小さく漏らした。
「俺、人を傷つけたんや。
大切やった人を一番酷いやり方で
傷つけた」



