「カットーーーー!!!オッケェ!」
監督の声が響いて、都内のロケ現場である小さな橋の上で、スタッフやキャストの安堵のささやき声が方々で聞こえてきた。
あたしもほっとした一人。
来シーズンドラマのワンシーン。
このシーンは早朝、明け方から日の暮れる夕方まで何度も撮り直している。
ドラマ制作のスタッフも、出演しているキャストもそれぞれ疲労し切っていた。
監督のこの一声は、十時間ぶっ通しの撮影でようやく聞けた。
「心がこもっていない」
「なんだその安っぽい演技は」
「つまらない女を演じてるんじゃない。そんな演技だったら誰でもできる」
監督の罵声を聞きながら
あたしの何がいけないの?と自問自答していた。
主人公(親友)と同じ男を好きになった女の役。ありがちな三角関係だけれど結局、主人公に“恋人”の座を譲る親友。
それがあたし。
身を引くとか、キャラじゃないし。
最後の最後まで戦い抜くのがあたし。
それがたとえ親友だろうが―――血を分けた
妹
だろうが。
譲れない。
何度も何度も繰り返し、たった五分にも満たないこのシーンのために一日中撮影した。
すっごく厳しいと有名でおまけにプロ根性なのか一切の妥協を許さない鬼監督の元
ヒットしないドラマはない、と言うぐらい“彼女”のドラマは良く売れる。
あたしから見たら髪はぼさぼさ、メイクだってほとんどしてない、服だって寝起きのまま来ましたって感じで、完全に女捨ててるでしょ、
って言いたくなるような監督に“女”の何が分かるのかと思ったけれど
出来上がった映像を見せてもらうと、その前のシーンよりも断然今のシーンがきれいに見えて
さすがね、と思ったのは事実。
「あんたはいい女だよ。最高にね。
高飛車でわがままで自信家で――――
でも
美しく
たくましく
強い。
私はあんたのその気質が、私の描いたサヤカを世界で一番うまく演じてくれると信じてたから。
さすが“双りぼっち”の主人公を演じるだけの女優だね」
その言葉を聞いてあたしはほっとした。
どんなに嫌な役だろうと、監督のイメージする役になりきってこそ女優だ。
「今日までお疲れさん。
また次の―――今度は映画制作のときに会おう」
男前なセリフで言われて、これまた男みたいに手を差し伸べてくる。
あたしは一瞬躊躇したものの、その手をぎゅっと握り返した。
たった一度、最初で最後の握手は“女”のように細く美しいものではなく
がさがさして手入れが行き届いていなかった。
でも柔らかくてあったかい―――
「今日までありがとうございました」
あたしは丁寧に頭を下げた。



