あたしはママの背中にきゅっとしがみついて首を横に振った。


「…いらない」


「?


そう?ママは欲しいわよ?


一結のパパは怖そうに見えるけど本当は優しくて、かっこよくて、不器用だけど一生懸命で


とても愛情深い人なのよ。



私たちは決して他人に後ろ指差されるような関係じゃなかったわ。


ママはいまでもパパを




愛してる」



この頃ママの言ってることは少しも理解できなかった。


言葉通り意味がわからなかったのだ。


ただ「愛してる」と言う部分だけ、なんとなく分かった。




それはとても大切でとても温かい言葉だと言うこと―――




意味すら分からないのに何故だか心がぽかぽかあったかくなった。


きゅっと締め付けられるようで、でもそれが心地よい。


ママはきっと父親にそう言われて幸せだったに違いない。


あたしもパパからそう言われたら幸せになれるのだろうか。


ママの後ろで束ねた髪の先が揺れて、白いうなじに汗が浮かんでいた。


「…ちょっとごめん。休憩」


ぜぇぜぇ…ママは息を切らしながら自転車のハンドルを握り足を下ろした。


坂はまだ半分ほどで登っていく傾斜が続いている。


「ママ、いちゆうおりるよ」


ママのブラウスの裾をちょっと引っ張ると


「大丈夫よ、ママは一結一人ぐらい乗せて登れるんだから。


ママと一結二人で一緒よ。




ね、一結」