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「誠に申し訳ございませんでした」


さっき悪口を言っていたママたちに必死に頭を下げるママ。


「ほら、一結も謝って“ごめんなさい”しなさい」


頭を下げることを促されたけれど、『ごめんなさい』なんてしたくないし。


ぷいと顔を背けると


「十朱さん、いくら父親がいないからっていっちゃんの躾はちゃんとするべきだわ」


「そうよ。父親がいない分あなたがしっかりしないと」


二人のママからそう言われても、ママはまたも頭を下げた。


まぁ今考えると、美人なママに嫉妬して


その分自分の幸せ自慢をして「リア充してます」みたいな顔で、少しでも優位に立ちたかったバカでくだらない女たちの妬みだったんだけどね。


「一結、何であんなことしたの?」


自転車の後ろに乗せられ、急坂を登りながらママがペダルを漕ぐ力を強めた。


「だってママのわるくちいってたもん」


「悪口なんて、どこからそんな言葉覚えたの?」


「みやたのおばちゃんがいってたもん」


宮田のおばちゃんと言うのは当時店の近隣で八百屋をひらいていたおばちゃん。


ママのお店の仕入れ材料をいつも安く譲ってくれていた。


気の良いおばちゃんで、あたしにもママにも優しくしてくれた。


だからあたしはおばちゃんが大好きだった。


「宮田さん、まぁまた一結に変なこと吹き込んで」


ママもそんな宮田さんを好いていたのか苦笑いだけ。





「一結、パパが欲しい?」





坂を登りながら華奢な母親の背の後ろでぽつりとその言葉を聞いた。