戒はリコのことを憎くて言ったわけじゃなく、キョウスケの味方をしていたわけでもなく


ただ自分の中の信念を貫き通しただけ。


戒がもっといい加減でその場限りの友情しか望んでいなかったら、あの結果はなかっただろう。


でも戒は真剣に友達としてリコを好きで、だからこそ本気でぶつかったんだね―――



「ごめん…あたし、あんたのことそこまで理解できてなかった…


謝るのはあたしの方」




ボウルの中の具材を混ぜる手がふと止まった。


「謝らんといて。


お前かて川上を大切にしてるって分かってたし」


あたしは顔を上げた。首を捻って振り向くと戒の目と視線が合った。


大きな琥珀色の目は目尻が下がっていて、口元に無理やりと言った感じで笑顔を浮かべている。


あたしはちょっと背伸びをして戒の顔に近づくと、行動を察したのか戒の顔もちょっとだけ体を屈めてあたしに顔を近づける。


唇と唇が触れ合う瞬間―――





「戒さん!!」







バタンっ!!



突然台所の扉が開き、


ビクゥ!!



あたしたちは同時に飛び上がり、慌てて体を離した。


入ってきたのはキョウスケで、いつも無気力そーにしているキョウスケは、今日ばかり血相を変えて余裕の“よ”の字もない様子で慌てている。


きょ、キョウスケ!!


「あ、お取り込み中すんまへん」


絶対“すみません”って思ってねぇだろ!てな態度で謝られるも、もう慣れたし。


キョウスケっていっつもタイミングが悪いんだよなー…




「てか、どうした?」



せっかく戒との仲直り大作戦(←そんな作戦だったの?)がうまくいきそうだったってのに、それをぶち壊すにはそれなりのビッグニュースなんだろうな。


「お嬢、良かった。お二人に話したいことがあります」


キョウスケは脇に抱えたノートPCをダイニングテーブルに置き、台所の扉に衝立棒をした。