俺は鯖の塩焼きの、最後の一口を口に入れて、殺し屋についての会議も終わったし


「今度、朔羅をここに連れてこようかと思う。あいつ喜ぶと思うか?」


今度は恋の相談。


「女はこうゆうところ好きだろ、なぁ彩芽」


一応“女”である彩芽に聞くと


「人それぞれじゃないかしら。でも嫌いじゃない女はいないと思いますけど」


と、ふふっと笑う。


「やらしい~な♪リュウ。この部屋露天風呂付だぜ?


ナニ考えてるんだ?」


「ナニって…ナニだ。決まってンだろ?」


俺が片眉を吊り上げて食後の茶を飲んでいると


「タチバナくんだって、奥さんと温泉旅行行ったっとか言ってたじゃない。


タチバナくんの“奥さん”なかなかの美人さんよ~」


と彩芽さんは俺にこそっと教えてくれる。


ほ~…さぞその美人の嫁にデレデレしてる姿が思い浮かぶ。



「うちの嫁はなかなか激しい性格でな、口は悪いし、態度もでかい。細かいし俺はしょっちゅう怒られてる」


タチバナの嫁と言うから、どんな女かと思いきやなかなかいい女じゃないか♪


“この”タチバナを尻に敷くとか。笑えるぜ。


しかも美人ときている。


こりゃ是非、見てみたいものだ。


「んで?お前は未成年の朔羅をこの宿に連れ込んで、イケナイことしようと企んでるんだな。


未成年者略取は結構な罪に問われるからな、気ぃつけろよ?」


とありがたいアドバイスを貰ったが






「俺の誕生日だ。ただあいつとここで―――



ゆっくりと過ごしたい。うまいもん食って、温泉入って、くだらないことを話し合って


そう思ってるだけだ」




ただそれだけ。


望むのは朔羅と共に煩わしい何もかもから開放されて


たった一瞬だけでいい






二人で笑い合えれば




俺にはそれで充分だ。




「切ないな」



タチバナが茶を啜りながら目を細め



「ええ、切ないわね……」



彩芽も同じように睫を伏せた。





「損な性分だな、お前も」



タチバナに言われたが、俺はそれに何も返さなかった。




損な性分。




それで大いに結構。





俺はただ―――あいつを泣かせたくはない。



ふと朔羅を思い浮かべて、この部屋で泣き崩れた鴇田を思い出した。


あんな風に―――大切な人を悲しませたくない。






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