ぼんやりと…遠かったり近かったりの記憶を俺は思い起こしながら、用意された部屋の襖を女将が開けると
「「おこしやす♪」」
…………
彩芽と、タチバナが揃って俺を出迎えた。
「相変わらず、フザケたコンビだな」
思わず悪態をつくと
「あら、随分な言われようですこと」と彩芽が口を尖らせる。
彩芽は白地に濃紺の薔薇を描いた和服に、少しグリーンがかかった同系色の帯と、変わったデザインの帯締めをしている。
早朝で、しかも急な呼び出しだと言うのにきっちり化粧もしているし
まぁ俺はそうゆう女が嫌いじゃないから何も問題がないが。
「尾行は?」
腕を組んで胡坐をかいたタチバナに聞かれ、
「ない。お前たちももちろんないだろうな」
念のため確認すると、二人はそろって肩をすくめた。
―――
朝食で用意されたのは
この旅館が漬けている年季の入った梅で作った粥と、鯖の塩焼き、しぐれの佃煮、ふきの煮付けと、高野豆腐としいたけの煮物、出し巻き卵に、あわせだしの味噌汁とサラダと言うメニューだった。
お気に入りのメニューで俺がここに来るときはいつもこれを出してくれる。
「体に優しそうなメニューだな」
とタチバナが料理を眺めて目をぱちぱち。
俺は梅粥を啜りながら、隣で上品に味噌汁の椀に口をつけている彩芽をちらりと見た。
「なぁ彩芽、着物着るとき下着つけないってあれ、本当なのか?」
ブー!!
彩芽の反対側で同じく味噌汁を啜っていたタチバナは味噌汁を吹き出し、
「リュウ!貴様、彩芽さんにセクハラするためにわざわざ俺たちを呼び出したのか!」
と目をいからせている。
「しかも年上の女性に向かって呼び捨てにすな!!」
一方の彩芽は
「さぁ?確認してみます?」
と余裕の笑顔。
俺が二人を呼びだしたのは、もちろん彩芽の下着を確認したかったわけではなく
「杉並区で起きた事件、どう思う?」
と空になった椀を盆に置き、本題を切り出した。



