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== 琢磨Side==




俺のマンションから高速を飛ばして車で一時間と言うところに、贔屓にしている温泉宿があった。


周りは竹林。だが少し歩くと古くからの日本の町並みが広がっていて、情緒ある風情だ。


竹林の葉が風で揺れてわずかにこすれた音を立てる。


背の高い竹林の中に一軒、これまた風情のある木造の背が低い、老舗旅館が建っていた。


建物の周りを囲んでいるのは石灯篭で、朝もやの中オレンジ色の淡い光が浮かんでいた。





“華火(おくりび)”


と言う粋な名前の由来はまさにこのたくさんの石灯篭からくるものだ。


夜闇に咲き誇る淡いオレンジ色の火の光は、夜に咲く華。夜に来るとそれはそれは見ものだ。


「おこしやす」


祇園の訛のある美人女将が俺たちを出迎えてくれた。


言うまでもなくこの場所は鈴音姐さんが紹介してくれて、以来気に入って割と使わせてもらっている。



「お連れはん、もういらはってます。


いつものお部屋…ご用意させていただきました。


“百合”のお部屋どす」




以前、この部屋に鴇田を招いたとき―――……何の他意もなく、ただ昔のように俺の前でくつろいで欲しかったし、たった二人だけの慰安旅行と称して泊まったことがあった。


長年一緒に居ると、どうも言いたいことを真正面から言えない気がして。(注:それは鴇田だけです)


男同士、腹を割って普段から思ってることを喋れれば、と軽い気持ちで誘った。



“百合”の部屋を選んだのは偶然だ。ただ昔…愛した人と同じ名だったから―――目についただけ。



だけど