「お、おはようございます!」


何を言われるのか、ドキドキしてあまりの緊張で声がどもっちまった。


『おはようさんどす』


弓枝姐さんは一番最初に会ったときの穏やかな声だった。


そのことにちょっとほっと胸を撫で下ろす。


『昨夜はろくに挨拶もでけへんで、すんまへんえ。堪忍してね?』


「い、いえ!こちらこそっ」


シャキッ!


あたしは目の前に相手が居るはずもないのに慌てて背筋を伸ばした。


『お嬢さん、うちが怒ってる思うていはるんやないかと思うて。


そんなこと無いんえ』


「い、いえ!そのようなことは!!」


思ってましたケド、そんなこと正直に言えん。


慌てて手を振ると


『嘘おっしゃいな。うちかて龍崎家のお嬢はんやと知って少し気分が悪うなったさかい』


や、やっぱ怒ってた……??


『でもね、あんさんは見ず知らずのうちを助けてくれはった。


ご丁寧に会社までご案内してもろて、



龍崎はんはほんまええお嬢さんを、立派にお育てになったんやね。



戒くんの婚約者が、あんさんで良かった思いました。




これからも何かとお付き合いがあるさかい、よろしゅうね』





弓枝姐さんは穏やかに笑い、あたしは目をまばたいた。


『何なら戒くんやめて、響輔のお嫁さんにきてもろてもええよ♪


うちは大歓迎さかい。鷹雄も喜ぶし』


弓枝姐さんはかぁなぁり真剣に言ってきて、


い、いや、いやいやいや…


あたしは慌てて顔を横に振った。



『今度こちらに来てもろたら大阪案内します。鈴音姐さんと三人で女子会なるものをいたしまひょ♪』


ご機嫌にそう言われて



鈴音姐さんと弓枝姐さんと女子会…


考えただけでもぞっとする。いやいやキラキラ華やかだな…



お誘いの言葉だけをありがたぁく受け取って、あたしは通話を切った。



弓枝姐さん……良かった。




今度はもっとちゃんと―――しっかりご挨拶します。