衛の手当てにしばらく喚いていた会長だが、やがて薬が効いてきたのか大人しく寝息をたてはじめた。


俺は彼の布団を引き上げると、肩まできっちり掛けた。




「鎮痛剤の量を増やしておいたよ。


相当辛かったはずだ、倒れなかったのが奇跡だね」



やはりそうか―――


衛は新しい注射器のシリンジ(注射筒)を指で弾くと、針の先から透明な液体が飛び出る。


「俺に?だったら大丈夫だ」


そう言ってやると、


「君じゃなくて、お嬢さんに―――ですよ。


さぞや心を痛めておいででしょうから」


衛はわずかに眉を下げて無理やり苦笑い。


「お嬢は会長のこと疑ってない。会長と派手にやりあってそれどころじゃないだろうな」





「いつまで隠しておくつもりですか」




衛は無表情に針の先を見つめ、温度の無い声で聞いてきた。


「いつまで?そんな質問愚問だ」


俺は腕を組んで衛を見下ろすと、衛はため息を吐いて針にカバーを取り付けた。




「最期、まで―――に決まってンだろ?


それが会長のご希望だ」




「私は精神科医じゃないからはっきりとは言えないけれど、隠し通すのは無理だし、お嬢さんは傷つく。


彼女のことを考えるのなら…」


「黙れ、俺はお嬢のことより会長の方が大切だ。


余計なこと言うんじゃないぞ」


釘を差すと、衛は呆れたように吐息。


「患者のことは黙ってるよ。守秘義務があるしね。


ただ―――君はもう少し…お嬢さんのこと考えた方がいい。





イっちゃんのことも―――」