「いや……そんなこと考えてねぇし」


慌てて言ってオレンジジュースを一口。


冷たいジュースを口に入れて、ほんの少しだけ緊張が緩まった。


「ちょ…ちょっとは考えてたけど。


戒は悪くねぇし…」


どんな形であるにせよ、婚約者が居ながら横から奪ったのはあたしだ。


母親だったら納得いかねぇよ。


「誰も悪くないですよ。


それに鞠菜かて彼氏おるし。戒さんより優しい言うてましたよ?」


アイスコーヒーに口を付けながらキョウスケが眉を下げて寂しそうに笑う。


「俺より優しいってどない意味や」


戒が冗談ぽく口を尖らせ、


こんなときまで気を使ってくれる二人に思わず笑みがこぼれた。


そうだよ、不安なのはあたしだけじゃない。


「お、お手洗い行って来る!」


あたしはメンタルを立て直すため、立ち上がったが


「ブッ!」


誰かにぶつかり思い切り鼻を打った。


いてて…


「失礼、お嬢さん。お怪我は?」


前にも聞いた台詞とシチュエーションに鼻を押さえながら顔を上げると


昨日あったイケメンジェントルがにこにこ。


「おやっさん!」


戒が顔を輝かせて腰を上げ、


「戒さん!いやぁしばらく見んうちに大きいならはって」そのイケメンジェントルの表情もぱっと華やいだ。


「俺の親父ですよ」


や、やっぱそうだったか…


「親父は戒さんが大好き。実の息子の俺より可愛がってるんですよ」


ボソっ


キョウスケがあたしに耳打ちしてくれて





「響輔、お前はあんまり変らへんなぁ。それより早よぉ、このお嬢はん紹介してくれ」





キョウスケパパはきらきら笑顔であたしを見つめてきて、


その輝かしいイケメンビームにあたしは


くらり



めまいを覚えた。