秘密めいた一瞬のやり取りを戒やキョウスケに気づかれないか心配だったけれど、二人はロビーの中央の噴水に目を向けている。


洒落たギリシャ彫刻のような銅像が三体飾ってあって、今はその流れの動きが止まっている。


おまけに噴水の周りの床は水浸しだった。


中から長靴を履いた作業服姿の作業員が出てきて、


「何事だ?」


鴇田は濡れた床を避けると、眉をしかめながらもまたもインカムで連絡。


「―――噴水の故障?いつごろだ。―――すぐに復旧させろ。なるべく部外者の連中を入れたくない」


ホテルのロビーには鴇田と同じようにスーツを着た男たちの姿が目立つ。


商談と言う風を装っているが、そんな感じには見えない。


いかにもインテリ風と言う男たちの耳にささっているのは叔父貴や鴇田にささってるインカムと同じものだ。


「随分、厳戒態勢なんですね」


キョウスケがきょろきょろと吹き抜けのロビーを見渡し


「まぁな。上のフロアまでたどり着くまであまり喋らないように」


鴇田に指示されて、あたしはまたもムっと口を噤んだ。


言われなくても聞いても教えてくれないし。


あちこちに配置されているエレベーター、その一機に乗り込んで叔父貴は23のパネルを押した。


「やっぱ上に昇っていく感覚……いややわ」


戒は顔を青くさせてぐったりとあたしに寄り添ってくる。


戒は―――高所恐怖所だ。


「大丈夫だよ」


今度はあたしが戒を宥める番。戒の肩を撫でさすりながら引き寄せると


「うん」


戒は大人しくあたしの肩に頭を乗せてきて、すりすり。


戒―――……大丈夫だよ。


不安かもしれないけど、あたしもキョウスケも、


三人居れば、必ず向かっていける。






三人居れば。



あたしは反対側の壁に手をついたキョウスケの指の先をそっと触れて、キョウスケもその触れた手を握り返してくれた。




あたしは戒がいつも『三人一緒』にって言ってたけど、その意味がいまいち分かってなかったのかもしれない。


目に見えない敵はいつも突然現れ、


知らない場所で誰かが危険なこをに巻き込まれてるかも―――って心配がない。


それに三人一緒だとなぜか心強いんだ。



この先何が待ち構えていても、あたしたち三人なら対抗できる。


いや



してみせる。