「警護なんてお前に頼んでない。
お前もそこを離れろ、危険だ」
俺が言うと
『もちろん、警護はあちらの構成員とこっちから数名ガードを出してるけど、
異変が無いか確認しにきただけ。これから帰るわ…』言いかけて『ご苦労様』と誰かに声を掛ける。
「こんな日ぐらい仕事を忘れろ。お前は給料以上に良くやってくれてる」
呆れたように言うと、
『私から仕事を取ったら何が残るのよ。
それに…今夜は―――
正直一人で眠れなさそうだし…』
最後の方の声のトーンがわずかに下がって、やっぱりイチのことを気にしてるんだな…と改めて気づいた。
「キリ…」
掛けるべき言葉を考えていると
『冗談よ』キリが電話の向こうで笑い、
『それに…白虎の幹部を狙ってスネークが現れたら、私だったら分かるかもしれないでしょ?』
キリはくぐもった声を潜めて慎重な口調で答える。
「そうかもしれんが、向こうはお前のことを妹だと気付いてない可能性だってある。
迂闊に近づくな」
『分かったわよ。今から帰るからそう怒らないで』
キリは若干鬱陶しそうに言って、でも次の瞬間楽しそうに笑った。
『知らなかったわ。あなたって過保護だったのね。
親しくなる前は他人に興味なんてなさそうだったのに』
随分な言われようだが、今だって根本は変ってない。
「今だってない」
はっきりと言うと
『じゃぁ、あなたが心配してくれるのは私があなたのテリトリー内に入ることができたから?』
「テリトリー?」
『心の、ね。
他人を寄せ付けないあなたの心の内に私を置いてくれるから。
ヤクザのオトコは愛情深いって、あれ本当のことだったのね。
あなたは私を愛してなどいない、って言ったけど
でも傷つけたくないとは思ってくれてる。
それも愛じゃない?』
キリに言われて俺は目を細めた。
手の中のグラスの中で氷が揺れ、小さく吐息を吐いた。



