「あたしにはあんたの方が極悪に見えるけどね。
龍崎会長は確かに怖いけど、あたしには紳士に接してくれるよ」
イチは嫌味ったらしく声をあげて笑う。
紳士…ねぇ。まぁ女には優しいお人だから。
一応イチも女だしな。
それに会長は俺の娘と知っているからか、イチをもう一人の姪のように可愛がっているところがある。
「まぁ俺の…その親も死んでいないが」
「そっか……じゃぁあたしにはホントにあんただけなんだ―――」
イチが少し寂しそうに目を伏せて口元に小さく笑みを浮かべる。
「衛だって居るじゃないか。それに……」
言いかけて俺は次の言葉を飲み込んだ。
それに―――……
俺は何を続けようとしたんだろう。
キリも居るじゃないか。
それとも―――……
イチは俺の手にそっと指を絡ませてきた。
トン…と俺の肩に頭を預ける。
「たまにはいいかもね。
親子ごっこも」
「親子はこんなことしないだろ」
俺は言ったが、それでも手を離そうとしなかった。
いつもより…といってもそれほど知ってるわけではないが、いつもより高い体温が離れていかないように
俺はイチの手をぎゅっと握り締めた。
「雨の匂いがする。
気圧が変化してるのが分かる。
一雨くるかも」
イチは俺の手を握りながらも、照れくさそうに顔をそらし
窓の外を眺めた。



