―――

タクシーが走り出して五分、隣の席でイチはずっとバッグにぶらさがっているクマのぬいぐるみを手にしてじっと見つめている。


イチはたくさんのバッグを持っているが、そのクマだけはいつも一緒だ。


「そのクマ……気に入ってるのか…?


そうゆうのが趣味なのか?」


普段なら気にもならないことだったが、イチの横顔があまりにも真剣で俺は問いかけた。


よく考えたら俺はイチが何を好きなのか、何が嫌いなのか


よく知らなかった。





親失格だな。




イチがクマを握ったままゆっくりと顔を上げ、


「響輔から…貰ったものだから」と小さく答えた。


キョウスケから―――……?


ああ、それで大事にしていたのか。


俺は小さく吐息を吐いて


「お前たちはどうなってるんだ…」


と聞いた。


「どうって?」


イチがうつろな顔で聞いてきて、俺は小さく咳払いをして


「その……付き合ってるのか?」


とまたも聞いた。


普段ならイチが誰と付き合おうがまったく気にならないのに、今日だけは……


いや…こうゆうときだからこそ聞けるんじゃないか。


そんな考えが過ぎって俺はイチに顔を向けた。