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―* 鴇田Side *―




「色々迷惑を掛けたな。


すまないが、今日はイチを連れて帰る」


俺はイチを抱き上げたまま、キリと衛を見て謝った。


プールから落ちて以来、イチは俺にずっとこんな調子で俺から離れようとしない。


俺の首に回した手にぎゅっと力を入れる。


「構わないよ。イっちゃんは熱があるみたいだからお大事に」


衛にそう言われて、


熱―――……?


改めて抱き上げたイチの体温が熱いことに気付いた。


「はい、イっちゃん。荷物ですよ」


と衛がイチの荷物をイチに手渡すと、イチは無言でそれを奪い


大事そうに俺の腕の中で抱えた。


「悪かったな、キリ。


今度埋め合わせするよ」


キリを見ると、





「いいえ……お嬢さん、お大事にしてください。


しょ……いいえ、鴇田部長」





キリはほんの少し悲しそうな笑みを浮かべて、秘書仕様の仕草できっちり頭を下げ


一瞬、妙に他人行儀なその行動を不思議に思ったものの


店の人間が呼んでくれたタクシーが到着して、その疑問を口にすることはできなかった。