真っ暗な中…細かい泡の粒子が目の前に広がって、何もかも絡め取られたように身動きできない。
手足をバタつかせてもむなしく水の中で弧を描くだけ。
ああ……あたし―――
泳ぎは得意な方だったのに、溺れて死んじゃうんだ…
夏の夜の水泳って何だかロマンチックだけど…でも凄く冷たい。
凄く
冷たい。
最期に一回だけ響輔の腕の中に抱かれて
何もかも忘れて一緒に眠りたかった。
「一結」
響輔があたしを呼んでる。
「一結」
そうよ、
あたしの名前は“一結”あたしの名前を
呼んで。
「一結」
だけど差し伸べられた手は響輔の手じゃなく
憎くて、憎くて憎くて…―――…ううん、ホントはあたしが凄く欲しかった手。
「パパ?」
ザパッ!!!
あたしは鴇田に抱きかかえられるように、水面に顔を出した。