電話の相手は誰―――…
「…メール?―――ああごめん、まだ見てない」
タイガはうんざりしたように額に手を当て
あたしは「メール…?」と考えた。
メール、メール……
そうだ!
タイガのパソコンに送られていたあの暗号メール!
ようやく閃いたところで
「―――それより、バットを車に積んだのは君か…?
ああ……下ろし忘れただけ?」
バット……
さっき見た!
「困るよ……あれを見られたら私は終わりだ。証拠になり得る。
見られたのがお嬢さんで良かったが…」
証拠…?何の証拠だ……?“お嬢さん”てあたしのこと?
あれで誰かを殴り殺したんか?
タイガはまだ通話を続けてる。
今がチャンスかもしれない。
あたしはその場を離れると店の外に飛び出た。
駐車場にタイガのヴァンガードを見つけると、慌てて駆け寄り後部座席を覗き込んだ。
さっきは立てかけてあったのか席から柄の部分が見えていたのに、今は仕舞われているのかそのバットの姿が見えない。
スモークガラスだし、中の様子もはっきり分からない。
くっそ!
タイガの何かが探れるかと思ったのに。
舌打ちしていると
トン
タイガの手が車の側面につかれて
「探し物かい?
うさぎちゃん」
低い声。温度の感じられない口調。
まさかここに来るとは思ってなかったから、あたしは一瞬で身が固まった。
夜の闇の中、タイガの無表情の顔だけが浮かび上がってあたしの額に冷や汗が流れる。