なんで俺じゃあかんねん

「よし!じゃあ、S町行こう!」

葵がにこっと笑って、また駅の方へ歩き出す。

「葵・・・?」

俺も慌てて追いかける。

「あそこ行けば、なんかあるって。

食べたくなるもの!」

そう言ってまた笑う。

「・・・・。」

その笑顔を見ると、ほっとした。

あー葵ってこういう奴やった。

段取りが悪い俺のことを、責めたりはせん。

こうして、笑ってカバーしてくれる。

「おう。」

この女は、こういう奴や。

だから、俺はまたおまえのことを好きになる。

俺は、今まで恋愛なんてしてこなかったし、

好きになったのは葵だけ。

きっと、全然かっこよくない。

けど、そのままの俺を葵は受け入れてくれる。

だって、家族やもんな。

そう思うと、葵と姉弟として出会ったことも、そんなに悪くない。

はじめから、素の俺を知られてるから、楽にいられる。

反対に、素の葵を俺は好きになった。

誰よりもきっと、葵のことを知っているから・・・だから、嫌いにもならない。

だって全部知ってるから。