「そんな・・・。

じゃあ、ハルの好きな人ってだれ?」

「言うか、バカ。」

今度はデコピンする。

「いた!」

本人に言えるわけないやろ。

第一、おまえ、俺のこと弟としか思ってないのに。

「意味わからん・・・。」

「別におまえにわかってもらわんくてもええから。」

そう言うと、むっとしたように不細工な顔になる。

でも、そんな顔も好きやな、とか思うから・・・俺のがバカ。

「そんなん、納得できん!!

私は、ハルがついに好きな人ができたんやって思って

その相手は、雅さんなんやって思ったから!だから!!」

だから・・・?

え?なに?

今度は俺が眉を寄せる番だった。

俺の表情を見て、ハッとなって言葉を止める。

「いや、別に・・・なんでもないけど。」

しどろもどろになって、目を泳がせる。

絶対なんかあるやろ。

「葵・・・『とにかく!!』

俺の言葉を遮る。

「・・・今日は、もう寝る!!!」

「お、おう・・・。」

「うん。」

彼女は、未だつないだままの手を見る。

仕方なくそっと放した。

「おやすみ、ハル・・・。」

「おやすみ。」

一瞬だけ視線を合わせて、葵はリビングを出ていった。

その閉まった扉を眺めながら、さっきの葵の言動が頭の中でよみがえる。