なんで俺じゃあかんねん

演奏が終わって、拍手を送る。

雅さんはそれにこたえるように、コンサートのときみたく立ってお辞儀した。

「これ、次のコンクールの課題曲やねん。」

「そうなんや。難しそうやな。」

「それなりに、ね。でもようやくつっかえずに弾けるようになってきたかな。

先生は、やっとスタート地点って言ってた。」

そう言って苦笑する。

これでスタート地点って、結構スパルタやな・・・。

「そっか。でもまだ時間あるし、雅さんならきっと大丈夫や。」

「ふふっありがとう。がんばる。よかったら、本選見に来てくれへんかな?」

「俺、音楽とか全然わからんけど、いいん?」

「いいよ~。部活なければぜひ。」

「うん。」

俺の顔を伺い、言葉を続ける。

「坂井くんも、がんばってね。」

顔をあげると、優しく笑いかけられた。

その言葉が、なにに対してなのか、はっきりとはわからん。

もしかしたらバスケのことかも。

でも、俺には葵のことを言われている気がして仕方なかった。

だから、あえて『なにを?』とは聞かなかった。

ただ、静かに頷くだけだった。