なんで俺じゃあかんねん


あ・・・。

なんとなく輪になって踊る中で、先輩と葵のペアを見つけた。

不慣れなのか、はずかしがってるのか、カチコチなダンス。

でも、お似合いやな、やっぱり。

ちょくちょく他の2年に冷やかされながらも、楽しそうに踊っている。

その光景を見たくなくて、俺はカーテンを閉めた。

「坂井くん、ごめんね。さっきは。」

「いや。俺のためやろ?こっちこそごめんな。」

雅さんは、少し笑顔を向けるとおもむろにピアノを弾きだした。

はじめて聞いた曲だった。

たくさん音があって、難しそうな曲。

それをさらさらと弾いてしまう雅さんは、さすが天才と言われるだけはあるんやろう。

なにも言わず、真剣にピアノを弾く彼女。

それを俺は見ていた。

さっきの二人の光景を忘れられるかと思って。

上書きできるかと思って。

・・・でも、いくら雅さんのピアノに耳を傾けても、真剣な彼女を目に写しても

頭を支配しているのは二人の手を取り合う姿、そしてさっきの会話。

気になって、またカーテンをあけそうになったけど

それをどうにかピアノへの興味で押し殺した。

ちゃんと聞いている、とは言えない状況。

でも、なにかに関心を向けていないと、またおかしくなりそうで。

必死に耳を傾けた。