なんで俺じゃあかんねん

ちょっとした時間だったんだろうが、俺にとってはそんなに短い時間でもなかった。

葵がいきなり俺の方を向く。

「な、なに?なんか私の顔についてる?」

なにに剥きになってるのか、そんなことを言ってくる。

「いや・・・目と鼻と口しかついてない。」

「せやろ・・・。」

「うん・・・。」

そして、二人して気まずくなって視線をそらした。

なんやねん。

葵がなに考えてるんか全くわからん。

あんなにわかりやすいのに。

いや、俺ならわかると思ってた。

ずっと見てきたから。

他人がわからんような些細な変化も、俺なら気付けると思ってた。

誰よりも、葵のことをわかってるから。

でも・・・

「坂井くん!!」

え・・・

いきなり、違う女子の声で名前を呼ばれた。