なんで俺じゃあかんねん

うんうんと頷きながら、またピアノの椅子に腰かける。

「怖がっちゃ、だめだよ。」

怖がる?俺が?

「親とか、友達とか、世間の目を。

だって、なにも悪いことしてないんやから。」

「いやでも、普通考えてあかんやろ!

戸籍上はやけど、姉やぞ?俺は姉ちゃんのことが好きなんやぞ?おかしいって。」

「それを言い訳にしてへん?」

雅さんは、少し厳しい表情をした。

「なら坂井くんは、もし葵先輩と姉弟じゃなかったら簡単に告白できるってこと?」

「当たり前やろ。好きやって自覚した瞬間告ってるわ。」

「嘘。」

「え?」

「もし、姉弟じゃなかっても、なんやかんや理由つけて逃げると思う。」

そんなわけ、ない。

もし姉じゃなかったら、って俺だって何回も考えた。

家族じゃなかったら、こんなに苦労してへん。

「雅さんにはわからん。葵が姉ちゃうかったら、俺だって。」

「じゃあ、あきらめるの?」

「それは・・・!」

「葵先輩のことはあきらめる?」

「それができへんから、困ってるんやんか・・・。」

そう呟く俺に、また小さく笑う。

「じゃあ、覚悟決めるしかないよ。坂井くん。

そんなに好きな人に巡り合えるのって、奇跡に近いと思うよ。

私は応援するから。」

雅さんってこんなキャラやったっけ?

こぶしを二つ握り締めて俺に熱い視線を向ける彼女を見て思う。