高校付属図書館の二階、図書閲覧室のガラス戸を開いてすぐの、広々とした読書スペース。十脚のテーブルが五脚ずつ二列に並んでいる中の、入口から向かって左列、奥から二番目。私愛用の八番テーブル。

 いつも座る椅子に手を掛け、思わず頬が緩む。いつからだったか、この椅子が私の特等席になっていた。元々私が使っていた斜め向かいの席は、今は別の人が所有している。
 今日は、その最後の日だ。



 三月一日。三年生の餞(はなむけ)が行われているこの日、私は図書室に足を運んでいた。図書館に通っていた卒業生が最後にここで談笑でもできるようにと、木村先生が休館日にも係わらず開放してくれたのだ。
 式が終わった頃を見計らって登校した私は、ここである人が来るのを待っていた。


「手嶋くんと待ち合わせでもしてるの?」

 本を読んで時間を潰していると、とん、と肩を叩かれる。頭を上げれば、そこには優しい笑顔の木村先生。式に出席していた彼は、今日は珍しくグレイのスーツを着込んでいる。

「……待ち合わせ、とかはしてないんですけど」
「もしかしたら来るかも?」
「……はい」

 小さく頷いて、本を閉じた。