「だから、良かったと思います。先生とデートしてみて」

 私が笑いかけると、手嶋先輩は腑に落ちない様子で顔を背けてしまった。やっぱ結局デートなんじゃん、と文句を言う声に、また別の笑みがこぼれる。

 可愛いなあ、と思うのと同時に。好きだなあ、と思って。


 すみれで先輩が大学受験をしないということを聞いて、戸惑った。自分が勝手に思い込みをしていて、わかっているつもりでいて。本当は何も知らなかったのだと、もどかしく思った。こんな自分が腹立たしかった。
 先輩と話して、心の中で渦巻いていたよくわからない感情が穏やかになって。そうしてやっと気付いたのだ。

 私が変になった理由。いつの間にか私は、彼の一番近くにいたいと願っていた。

 彼が私のテリトリーの壁を崩したのと同じように、私も彼の中に入り込んでみたかった。数ある“周囲”の中に埋もれてしまうのではなく。特別な“何か”になってみたかった。
 自分以外に無関心で、誰にも心を許さない野良猫ではなく。彼の傍に、望んだこの場所にいられる、そんな喜びを持った“ネコ”に。

 私はそう、なれただろうか。