急に黙った私を特に気にする様子もなく、着込んだ黒いダウンのポケットに手を突っ込んで、先輩は歩き始めた。私は三歩ほど間を空けてその背中についていく。

 しばらく沈黙が続いたが、校門まで来たところで、先輩はこちらを振り返った。

「ネコちゃんってさ、塾とか行ってるの?」
「え、っと……いやまだ行ってないです」
「『まだ』ってことは、そのうち行く予定?」
「はい……三年になったら。受験、だし」

 どうしてそんなことを聞くのだろう。不思議に思って、下げていた頭を上げる。目の前には先輩の穏やかな笑顔があった。

「そっか。頑張れよ、後輩」

 伸びてきた腕に、くしゃりと髪を撫でられる。なんだかよくわからない気持ちが込み上げてきて、慌ててその手を叩き落とした。

「先輩こそ……自分の心配してください。寝てばっかりいたら、落ちますよ」
「うっわ言うに事欠いてお前!俺は俺なりにちゃんと頑張ってんの」
「ええー……」
「何だよその目は」

 うたぐる私に、彼はまた笑ってみせる。私もつられて少しだけ頬が緩んだ。頑なになった心の中に、段々と温かなものが広がっていく。

 そんな気が、した。