ライラックをあなたに…



目の前の彼はもう、私の大好きな侑弥さんじゃない。

だって彼は『…だった』と、全て過去形で話している。

私にとってはまだ、現在進行形だというのに。


彼の中で『私』はもう、過去の女になっている。



私は奥歯を噛みしめ、必死に涙を堪えようと……。

けれど、すでに涙腺は壊れてしまったみたい。

次から次へと涙がとめどなく溢れ出す。


まるで、私の中にある幸せな思い出を全て奪い去られるみたいに。

出し尽くすまで、枯れ果てるまで、止まることを知らないみたいに。



「寿々の両親には、改めて謝罪に伺うから」

「……うぅっ……ッ……」


視界が閉ざされてゆくのと同時に、深い深い闇の中に引きずり込まれる。

身体の芯から鋭い痛みのような冷たさが伝わって来る。


どこまでも続く深い闇の中に、重く沈んでゆく自分がいた。



「寿々は今まで通り、このマンションに住めばいい。俺がここから出て行くから」

「…ッ……うぅっ……」

「電話番号もアドレスも変えないから、困った事があったらいつでも連絡すればいい」

「……っ………」