ライラックをあなたに…



「寿々、冗談じゃないんだ」

「……へ?」


彼は顔色一つ変えず、真顔で答えた。

冗談じゃ………ない?


「それって、どういう……ことなの?」


頭が上手く回らない。

冗談じゃないなら何だというの?

お酒を1滴も飲んでない私は、まるで酔っているみたいに眩暈を覚えた。


「実は、今年の環境・設備デザイン賞を授賞した際に、とある人の目に留まってしまい、その人から縁談を持ち掛けられた」

「……」

「俺には寿々がいるから、丁重にお断りしたんだが…」

「……」

「その相手が、国土交通大臣政務官の1人娘なんだ」

「……」

「何度も断ったんだが……」


彼は顔を歪めて、ため息を零した。


「……その人と……結婚…する……の?」

「………あぁ」


彼は目を瞑って、小さく頷いた。


大臣政務官の1人娘。

きっとその人の父親が、数多くの賞を取って来た彼の才能に惚れたのだろう。

建設業を管轄する国土交通省。

恐らく、どこかで彼の仕事ぶりを見ていたんだわ。

それで、その人の目に留まって…。


けれど、そんな事を急に言われても……。