ライラックをあなたに…



帰宅ラッシュの時間と週末、そして、クリスマスイブというトライアングルの時間が重なり、電車内はすし詰め状態だった。

いつもならドア付近の手すりに掴まり息を潜める私だけど、今日ばかりは違った。

ドアに背中をつける私を覆い被さるようにして、彼が優しくガードしてくれている。


生まれて初めて味わう感覚。

あの人と付き合っていても、通勤電車はいつも違う車両に乗っていたから。

こんな風に公衆の場で密着する事に恥かし過ぎて眩暈がしそう。


私は真っ赤な顔を隠すように彼の胸に顔を埋めると、自然と頭に顎を乗せる彼。

誰が見ても恋人同士だ。


しかも、彼の大きなスーツケースを衝立のようにしてドアの隅にいる私は、彼以外に触れる人はいない。

そんな些細な事も嬉しくて……。

息苦しいほど混雑している電車だけど、ずっと乗っていたいと思ってしまった。



半年の時間を埋めるようにお互いに沢山の話をしながら、駅からマンションまでの道のりをゆっくり歩く。


そして、マンションに着くと、彼が『お腹が空いた』と言い出した。

そう言えば、そんな時間だ。

私はさっき研究室でケーキを食べたし、カフェ巡りをしたせいか、あまりお腹が空いてないけど。


でも、彼の為に作るのは全然苦じゃない。

むしろ、嬉しいくらいだ。


私は冷蔵庫の中を漁り、彼の好きなタンメンを作った。