ライラックをあなたに…



中庭を後にし、一颯くんの家へと向かう中。


「ねぇ、小池教授は?」

「は?またそれ、聞く?」

「え?」


彼は溜息を零しながら大きなスーツケースを転がして、もう片方の手で私の手をギュッと握ってくれている。


「教授は帰ったよ」

「………そうなんだ」


きっと、私達に気を利かせてくれたのだろう。

本当にどこまでもお優しい方だ。


「ねぇ、私のメール、届かなかった?」

「…………届いてたよ」

「え?」

「………ちゃんと届いてたよ」

「…………」


届いてた?

届いてたのに、1度も連絡を寄こさなかったの?

それって酷くない?


仕事がメインだけど、メールくらいする時間あったよね?


私はちょっとイラッとして、足を止めた。

すると、


「ごめん」

「………」

「俺の身勝手だって解ってる。だけど……」

「………」

「寿々さんに1度でも連絡を取ったら、決心が揺らぐ気がして……」

「………へ?」

「………男のケジメってやつだよ」


男のケジメが何なのか、いまいち分からないけど、彼がそう迄して成し遂げたい事があったという事は理解出来る。

私だって、合格するまで必死だったもん。