ライラックをあなたに…



私の声に反応するように抱き締める腕が強くなる。


彼の背中に回した手が遠慮がちに添わせると……。


「ん~、寿々さんの匂いだぁ」

「ふぇっ?」


恥かしさのあまり声が漏れ出した。

しかも、段々と意識がハッキリして来た。


彼の姿を見て動揺してしまったけど、徐々に落ち着いて来た今、この状況が恥かし過ぎて顔から火が出そうだ。


咄嗟に彼から少し離れようと身体を捩ると、


「もう少し、このままでいさせてよ」

「へ?」


ダメだ。

脳が甘く犯されている。

彼の言葉一つで胸がキュンと疼くんだもん。


しかも、大自然の中に長い事いた彼は、心なしか少し野生的になった気がする。

だって、こんな風に堂々と行動で示す人では無かった筈。



私だって、逢いたくて逢いたくて……。

さっきだって、何度もあなたを思い浮かべてたんだもん。

もう少し、甘い時間があってもいいよね?


こんな風に抱き締めて貰えるなら、もう少しどころか、いつまでだってじっとしてるよ。


彼が手の届く距離にいる事に安堵して、切なく疼いた胸が、今は嬉しくてキュッと疼く。



あの人に捨てられて、もう二度と味わう事が無いと思っていた感情。

…………恋い焦がれる倖せのときめき。