ライラックをあなたに…



お盆休み前という事もあり、父親は帰宅が遅くなるらしい。

母親と2人、先に夕食を頂いた。



母親は大好物のロールケーキの為、夕食を少な目にし、テレビを見ながらケーキを頬張っている。

そんな母親が可愛らしく見えるのは、父親同様、母親が歳を取ったように見えるからなのかな?



これといって観たい番組がある訳でもなく、手持ち無沙汰で携帯を弄り始めると。


「ねぇ、寿々」

「………ん?」

「恋人を………作る気ないの?」

「へ?」


手元の携帯から視線を上げると、母親は切なそうな瞳をしていた。


「侑弥さんの事が忘れられない?」

「…………別に、そんなんじゃないよ」

「じゃあ、………恋をするのが怖いとか?」

「……………分からない」

「分からないって?」


母親は真剣な表情で聞き返して来る。

正直、自分自身でも『恋』がどういうものだったか、よく解らない。


微笑み合うのが恋なのか。

相手に尽くす事が恋なのか。

常に心を痛めるのが恋なのか。


あまりにも辛い経験をしてしまって、心が凍ってしまっているみたい。

ドキドキと胸が高鳴る事はあっても、切なくキュンとなる事は無い。


母親の求める『恋』がどういうものなのか分からないほど、私の心は深い傷を負ってしまったようだ。