ライラックをあなたに…



「お母さん、ごめん!!」

「突然、どうしたの?」

「この雨の中、悪いんだけど……駅まで乗せてって」

「えっ?」

「理由は車の中で話すから、ごめん急いで!!」

「えっ、ちょっと……」



全く話の筋が見えない母親は困惑の表情を浮かべている。

だけど、今はそんな事を気にしている余裕は無い。


私は自室に戻り、荷物を手にして玄関へと急いだ。


「お母さん、早くー!!」

「はいはい、ちょっと待ってよ」


はた迷惑な娘を持って母親が気の毒に思えるけど、今日ばかりは許してね?



母親の運転する車で最寄駅へと自宅を後にした。


駅へと向かう車内で事情を説明し、『それなら仕方ないわね』と笑顔で見送ってくれた。



私は無我夢中で電車に飛び乗る。


『ごめんね、今行くから……』

そう何度も心の中で呟いて………。



実家から電車で1時間程の一颯くんのマンション。

最寄駅の改札口を出て、唖然としてしまった。


………晴れてる。


ゲリラ豪雨とでもいうのかな。

実家周辺はあんなにも酷かったのに、ここはまるで天国?

綺麗な茜色の空と少し湿った風がサラリと肌を撫でてゆく。