母親は、私が帰宅した事を父親にこっそり連絡したようだ。
私の大好物のプリンを手にして、早々と帰宅した父親。
久しぶりに見た父親は、すっかり白髪交じりになっていて、その表情も今までに見た事が無いくらい柔らかく感じた。
夕食後に父親が買って来たプリンを戴く。
普段は手土産なんて買ってくる人じゃないし、そもそもこんな早い時間帯に帰宅したりしない。
大手銀行のエリア本部長をしている父親。
常に残業の日々で、小さい頃は父親の顔は朝しか見た事が無かった。
勉強や躾に於いても厳しくて、『どこに出しても恥じない娘』が父親の口癖だった。
そんな父親の想いを土足で踏みにじるよなあの出来事。
結婚を目前に婚約者に捨てられる。
これ以上の『恥』は無いだろうというくらいのものだ。
結婚式の招待状は、私の友人は勿論の事、父親の会社の人にも配られていた筈。
今思えば、その後、どうしたのか気になる所。
きっと、下げたくも無い頭を下げたに違いない。
テレビを眺めている父親。
侑弥さんとの事を話す素振りは一切見せない。
だから、意を決して私から口を開いた。



