「いつ飲んでも美味しいです」
「そうですか?それは良かった」
教授は独特のオーラを持っている。
親身になってくれるけれど、それはこちらが助けを求めた時だけ。
教授から踏み込んで来る事は決してない。
それに、何でも見透かしていそうな瞳をしているのに、相手が心を開くまでじっくりと待つのだ。
初めの頃はその独特の雰囲気がもどかしくて、何度も苛々したりもしたけど……。
教授の傍で学んでいるうちに自ずと悟ったんだ。
樹木や花を育てるのと同じように、同じ温度になるまで相手に合わせる事が必要な事もある。
苗木を植える際にはたっぷりの水を与え、徐々に周りの土と馴染ませてゆく。
花を生ける際にも、水道の水を花瓶に入れたら、少しの間その水を室温に馴染ませておく必要がある。
そうする事で花に負担がかからず、より長く美しさを保つ事が出来るからで……。
人間にも同じ事が言えるのだと、教授は言う。
言葉に出来ぬほどの想いを無理やり抉じ開けてまで聞く必要はない。
敢えてするとしたら、そっと寄り添い、自然な形で言葉に出来るのを待つのが良いと言う。
だから、俺も寿々さんに対して、一定の距離を保ったまま彼女が自分から助けを求めるまで見守っていた。



