男の言葉に、沸々と込み上げて来る怒りの感情。
ドス黒く刺々しいその感情が、今にも爆発してしまいそうだ。
けれど、男の表情から察して、俺に喧嘩を売っている事は百も承知。
だから、俺は溢れ出しそうな悍ましい感情を寸での所でグッと堪え、必死に余裕の顔を見せた。
アンタに負けて堪るかよ!!
俺はアンタとは違うんだよ!!
そう何度も自分自身に言い聞かせて。
「……そうでしょうね。5年もの歳月を共に過ごせば、少なからず知っている事もお有りでしょう」
俺は必死に平常心を装って、微笑してみせた。
余裕なんてある訳ない。
毎日不安で堪らない。
彼女がコイツの元に戻らなくても、俺の元から去ってしまいそうで。
だがコイツには、そんな気持ちも状況も悟らせたくなくて……。
「今はあなたの方が彼女の事を知っているかもしれませんね。いえ、多分そうでしょう。ですが……」
俺は、男が俺にしたように嘲笑うような笑みを浮かべ、
「あなたの知らない彼女を知る権利が、俺にはありますから」
大法螺を吹き、俺は颯爽と男の元を離れた。



