ライラックをあなたに…



「俺がどうこういう問題では無い事は重々承知しています。ですが、敢えて言わせて貰います」


俺の言葉に男がキッと鋭い視線を向け、顔を持ち上げた。


「最終警告です。二度と彼女の前に現れないで下さい。次、彼女の前に現れた時は……全力で阻止しますから」

「ッ!!」


男の顔がみるみる歪んでゆく。

端正な顔つきが酷く歪んだ顔つきになった。


この男をここまでつき動かす『愛』という感情。

今の俺にはまだ良く分からないが、きっとこれが人間の本来の姿なのかもしれない。


コントロール出来なくなるほど、1人の人を想うという事。



彼女をあそこまで苦しめた男だが、ほんの少しだけ哀れに思えた。



俺は軽く会釈し、自宅へと向かおうと踵を返すと。


「キミは知ってるのか?」

「へっ?」


突然、背後から声が掛かかり、無意識に振り向くと……。


「キミは寿々の全てを知ってるのか?」

「………それはどういう意味ですか?」

「俺は……」


男は俺に挑発するような視線を送って来た。

そして、嘲笑するかのように口角を上げ――――。


「キミの知らない彼女を知ってる」