お互いに鋭い視線が絡まったまま、次の言葉が出て来ない。
何とも重々しい空気が立ち込めている。
どちらともなく相手の手の内を読んでいるといった雰囲気が、堪らなく苦痛でしかない。
俺は沈黙を破るように口を開いた。
「あなたと彼女の間には、もう何の関係も無い筈です。ご自分が彼女にした事をきちんと考えた事がありますか?1度でも彼女の立場になって考えたのなら、このような振る舞いはするべきではないと思いますが……」
「ッ!!」
「それに、彼女はもうあなたに執着していませんよ。前を向いてしっかりと生きています。そんな彼女の人生を再び歪ませるおつもりですか?彼女の事を今でも愛してるのなら、心の中で彼女の倖せを祈ってあげるべきだと思います」
「…………そんな事は言われなくても解ってる!」
「そうでしょうか?」
「何が言いたい」
「失礼ですが、あなたはまだ……彼女に未練がありますよね?」
「…………だとしたら、何だというんだ」
「それは、彼女にとって重荷でしかありませんよ。彼女はもう、あなたを受け入れる心すら持ち合わせていない」
「………」
男は奥歯を噛みしめ、顔を歪めた。
俺の言葉を理解したとしても、感情が伴っていないのだろう。
それだけ、この男も………彼女を愛していたという事だ。
目の前の男を見据え、俺の胸が酷く痛んだ。



