彼女が命を絶とうとしたあの夜。
今思えば、自分が取った行動が不思議でならない。
トラウマとも取れるあの出来事から数年。
俺は女性を避けるようになっていた。
勿論、バイト先ではそんな素振りを微塵も見せないが、どうしても本当の自分を曝け出す事が出来なくなっていた。
彼女の命を救いは出来たが、実際何て声を掛けていいのか分からなかった。
部屋のあちこちに点在する植物やベランダに研究の一環で育てている草花や野菜の数々に、きっと彼女も同じように思うに違いない、そう思った。
………俺の事をキモい奴だと。
それならそれでいいとさえ思えた。
命は救ったけれど、別に恩を着せるつもりは毛頭ないし、ましてや見返りを要求するつもりなんて微塵も無い。
だから、ある程度の距離を取って、彼女の事を観察していたんだ。
……草花や樹木と同じように、澄んだ心で。
すると、彼女は興味を示したものの、『キモい』とは1度たりとも口にしていない。
それどころか、俺に羨望の眼差しを向け始めたんだ。
初めて味わう感覚に俺はふと興味が湧き始めていた。



