ライラックをあなたに…



寿々さんが『実家に帰る』というのを土下座の勢いで拝み倒し、何とか暫く帰らずにいて貰えるようになったけど。

正直、不安で押し潰されそうだ。


寿々さんには自分の気持ちを素直に伝えた。

だって、実家に戻るのを阻止するには他に手立てが浮かばなかったから。



彼女の目には、俺はただの家主でしかなく、しかも3つも年下の学生ぐらいにしか映っていないだろう。

プラスアルファがあるとすれば、命の恩人という加点があるくらいで。



けれど、俺にとって彼女は………特別な存在になりつつある。



実際、最近になって漸くガーデニングブームの煽りもあり、男性でも花や野菜を育てたりするけど。

俺がこの世界に飛び込んだ頃は、草花や樹木に目を向ける人は造園業に携わっている男性か、はたまた暇を持て余してる主婦が主流だった。


法学部から転部したての頃は、勉強が楽しくて仕方が無かった俺。

暇さえあれば土を弄り、花を育て、樹木の観察をする日々。


その当時、授業で仲良くなった女の子を自宅に呼んだら、『キモい』と言われてしまった。

大学(授業)だけならまだしも、自宅にまで研究に明け暮れている俺を気持ち悪がったのだ。


そんな事が何度もあり、次第にこういう俺を受け入れてくれる女性はいないのだと悟った。



それからの俺は研究に全てを費やし、尊敬する教授の下で今日まで努力を積み重ねている。