ライラックをあなたに…



顏に軽い衝撃を受けた。

一瞬思考が停止したけど、これって、抱き締められてるよね?


思わず目を開けると、目の前には彼の黒いTシャツが視界に入った。


さっきより強いアルコールの匂いが鼻につく。

けれどそんな事よりも、今は心臓が暴れ狂ってどうしていいのか解らない。

きっと、彼にも伝わっている筈。



抱き締められた事により、彼の身体の逞しさを嫌でも認識させられてしまった。


『源ちゃん』で何度も目にした、重いビールサーバーを軽々持ち上げる彼。

片手でピッチャーを3つ持つその腕の逞しさが脳裏を掠める。



今、私はその腕に抱きしめられている。



「寿々さん」

「………ひぇっ?」


緊張のあまり、とんでも無い声が口から漏れ出す始末。

恥かし過ぎて、穴があったら今すぐ入りたい。


噴火寸前の顏は、もはや火傷しそうなほど熱を帯びている。

そんな頬に手を添えるように、腕を緩めた彼と再び視線が絡まった。


彼の少しひんやりする手の感触を頬に感じながら、視線が絡む。


何とも言えない程の甘い空気に、私は完全にお手上げ状態だ。