「ヤバッ、めっちゃ匂う!」
「………ん?」
「寿々さん。これ、客にビールを掛けられたやつだよ」
「えっ?」
「ジョッキ片手に立って一気飲みしようとしてたお客さんの隣りを通ろうとしたら、その人が急にふらついて、で、見事にビールを浴びたんだよね」
「……そうなの?」
「うん。俺、匂い慣れしてて気がつかなかった」
「じゃあ、ホントに酔ってないの?」
「………俺に、そんなに酔ってて貰いたいわけ?」
「へ?」
再び真っ直ぐ視線を向けられ、心臓が煩く騒ぎ出す。
だって、酔ってないって事は、彼は素面でさっきの台詞を言ったって事だよね?
それって………。
急に顔に熱が帯び始め、煩いほどに暴れ出す鼓動。
彼に聞こえてしまうんじゃないかと気が気でない。
思わずゴクリと唾を飲み込むと―――――。
「じゃあ、キスして、確かめてみる?」
「ふぇっ?」
薄い唇が僅かに上がり、彼の瞳が妖しげに揺れた。



