ライラックをあなたに…



『ここにいてよ』って、それって告白めいた台詞よね?


ひとつ屋根の下。

お互いにフリーの成人した男女が、同じ空間で生活する。


よくよく考えれば凄いことだ。

1ヶ月もの間、そんな単純な事をすっかり忘れていた。


恐らく、全てを失った私には、周りを見る余裕がなかった。

彼を『男』として見ていたのではなく、1人の人間として捉えていたに過ぎない。



心の枷が無くなった事で改めて実感する。

この異常とも思える同居生活が……。



何て言葉を返していいのか分からず顔を背けていると、彼が徐に間を詰めるように身体を近づけた。

すると、ふわりとアルコールの香りが鼻腔を擽る。


やっぱり、酔ってて可笑しな事を口走っているに違いない。

そうだ、そうに違いない。

だって、普段の彼からは想像も出来ない台詞だから……。


「やっぱり、酔ってるでしょ」

「はっ?……ってか、1滴も飲んでないけど」

「えっ?嘘でしょ?だって、さっきからお酒の匂いがプンプンするもん」

「ん?…………あっ!!」


彼は急に何かを思い出したようにTシャツの襟を抓み上げ、襟口の匂いを嗅ぎ、そして首を捻り肩口の匂いも嗅ぎ始めた。