『寿々、来年の春に結婚式を挙げよう』
彼は眩い輝きを放つ指輪を、そっと私の左手薬指に嵌めた。
それは夢にまで描いた瞬間で、日陰の存在だった5年の日々が漸く日向へと歩み出した瞬間でもあった。
私は嬉しくて嬉しくて、彼の胸で大粒の涙を零した。
「寿々の泣き顔は魅力的だから、俺以外の男には絶対見せるなよ?」
彼のそんな甘い囁きも全て私だけ為の言葉なんだと、心の底から幸せを噛みしめていた。
彼の事が大好きで大好きで……。
仕事がどんなに忙しくても、彼の為に美味しい食事を作ってあげたいと思えたし。
過労で心身ともに疲れていても、彼の為に朝早く起きる事は、全く苦では無かった。
全ては愛おしい人の為だから。
両家の挨拶、顔合わせも無事に済ませ、正式に結婚へと一歩を踏み出した。
結納を交わした日、彼は嬉しそうに婚姻届の用紙を私に差し出した。
「結婚式当日の朝、一緒に出しに行こう?」
「はい」
彼の優しい眼差しが、私の心を満たしていった。



