「あの荷物、何?」
「………えっと」
彼の視線があまりにも鋭くて、思わず言葉を失った。
あの人に向けた視線とはまた違うものだけど、明らかに怒っている感じがする。
もしかして、酔ってるの?
酔うと説教したくなるタイプの人もいるよね?
一颯くんって、そういうタイプなのかな?
だから、お酒を控えているとか?
俯き加減の私は、彼の顔色を窺うようにほんの少し視線を上げると。
「もしかして、ここから出て行くつもり?」
「へっ?」
「だって、荷物はすっかり纏まってるし、部屋の掃除だってしてたみたいだし」
「…………うん。それが一番妥当だと思って」
「ここから出て、どこに行くの?……あのマンション?」
「まさか!!あのマンションには戻らないよ。………実家に帰ろうかと思って」
「帰りたくないんじゃ無かったの?」
「うん、さっきまでの私ならそうだったよ。でも、………今は違う」
「違うって?」
真っ直ぐ見つめる彼の瞳は、とても酔っているようには思えない。
それに呂律だってしっかりしてるし。
だとすると、何故、棘のある口調になってるのかしら?



