ライラックをあなたに…



洗面所で手洗いをしようと彼の横を通り過ぎたそのとき瞬間、ふわっとアルコールの香りがした。


洗面所で手洗いしながら腑に落ちない私は、鏡越しにリビングの方に視線を向ける。



一颯くんはお酒を飲まない。

居酒屋でバイトしてるけど、仕事上がりに飲んだ事は無いらしい。

他のバイトの子はたまに飲んだりしてるけど、彼は一度も飲んだ事が無いらしい。

大将と女将さんが言っていた。


それに、自宅でも飲んでる所を見た事が無い。

というより、お酒の存在がそもそもない………この家には。



そんな彼からアルコールの香りがする。

バイトをしてれば、少なからず匂いが衣服に付く事はあるけど、今日の彼は違った。

完全にアルコール臭が彼から漂っている。


たかが匂いがするくらいでどうこういう話ではないけれど、ほんの少し違和感を覚えた。



手を洗い終えた私は、彼が待つリビングへと行くと。


「座って」

「………はい」


彼が座っている斜め左側に腰を下ろすと、無言でじっと見つめられる。

その瞳は何処となく憂いている感じがした。


「一颯………くん?」


彼の気持ちを探るように声を掛けると、